辻乃森音楽師  〜シューベルト断想&創作〜  

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zoom RSS 『シューベルトとアイスキュロス』 (Orphic Schubert)

<<   作成日時 : 2016/02/22 19:24   >>

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 多和田葉子氏の『言葉と歩く日記』に興味深いエピソードが綴られていた。
 ベルリンの少年刑務所で受刑者たちが演じる芝居を観にでかけた日の話。(因みに、その日の演者はドイツ語を母語とする人はいない。)
 演目は、「ウェスト・サイド・ストーリー風の物語」で、自作のテキストを「ラップにして歌う」、そんな舞台だった。
 しかし多和田氏を驚かせたように、「アイスキュロスの『テーバイ攻めの七将』の中のセリフの群唱が何度か入」りもする内容だというのには、私も思わず感心する。指導の賜物かもしれないし、受刑者たちの熱意のそれかもしれない。両方かもしれない。
 
 だが、私がさらに興味深く読んだのは次のくだりだった。
 
  まず大きなカセットレコーダーからシューベルトの『冬の旅』の中の一曲幻日が流れてきた。『冬の旅』ほど犯罪者たちの抱えている問題を多面的に扱った作品はない、とパンフレットに書いてあったので、わたしはちょっと驚いた。ブルジョアがソファーにもたれてワインを飲みながら聴くのが『冬の旅』だと思っていたわたしは、どうやら大切なことを見落としていたようだ。
  
 アイスキュロスの悲劇とシューベルトの『冬の旅』、ふたつの交錯。そのあたりの記述を少し長いが引用する。
 
  出演者にはトルコとアラビア語圏の出身者が多く、その「訛り」はベルリンでよく耳にするが、(中略)ギリシャ悲劇の登場人物たちはもしかしたら今わたしの目の前で劇を演じている青年たちと似たような青年たちだったのではないか、ろいう気がしてくる。グループに分かれて喧嘩して、敵に侮辱されれば、仲間と組んで、仕返しをしに行く。暴力的になって、相手に怪我をさせたり、命を奪ったりということも起こる。シューベルトをブルジョアの居間に閉じ込め、ギリシャ悲劇を教養文庫に閉じ込めてはいけない。これは彼らの物語なのだ。
  
 これを読んで、シューベルト・ファンはどう感じられるだろうか。私は暴力と『冬の旅』とのつながりがよくわからないでいるが、それでもキーワードは〈孤独〉ではないか、と思ってもみる。あるいは、子供も大人もない、人間の心の闇と光のことだろうかと。
 何にせよ、シューベルトに触れる文章で、とても印象に残った多和田氏の本でありました。
 
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
シューベルトの「幻日」、久しぶりに聴かせていただきました。プライの若いこと!声にも艶があって、いかにも彼らしい。もう10年ほど前、引退を目前に控えたペーター・シュライヤーの「冬の旅」を聴きにいったことを思い出しました。

シューベルトのそくそくと身を食むような孤独と、遠く故郷から切り離され根っこを失った青年たちの孤独とは、確かにどこかで通底するものがあるやもしれないと思いながら、耳を傾けておりました。
両者はともに、寄る辺なき精神的な孤児なのかもしれません。

アイスキュロスのテーバイ攻めも、私にはとても懐かしい作品です。大学時代、少しばかりギリシャ悲劇について学んだことがありました。恩師が毎回朗々と読み上げたのが呉吾一さん訳の「アイスキュロス」。
なかでもこのテーバイ攻めの場面が一番多かったように記憶しています。
アイスキュロスの悲劇とシューベルトの『冬の旅』、ふたつの交錯、それについての多和田氏の考察。多和田葉子氏、ますます読んでみたくなりました。
aosta
2016/07/09 05:54
aostaさん。
コメント、ていねいなコメント、有難うございます。
ああ、こんな文章を書いてたんだ、と逆に振り返らせていただきました。肩をトントンですね。
プライは私いとって最高の歌手でして、今でも亡くなったことが信じられないでいます。
ザルツブルグでの1964年ライブの録音を紹介され、今、それを聴いています。
最近、何かと余裕がなくて、ブログのアップもままならないでいます。が、肩トントンが嬉しいので、頑張ります。
Zu-Simolin
2016/07/10 08:22

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