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『テンポ雑感』
いわゆる西洋音楽、特にクラシック音楽の演奏では、テンポが大切だとよく言われる。それに間違いはないと思う。
まさしく<テンポ>という言葉を巡る考察例には事欠かない。
たとえば、H・プライの『冬の旅』(伴奏はビアンコーニ)の歌い方についての次のような評価の文章、
……比較的速いテンポのグループ、遅いテンポのグループという具合に、プライは(中略)歌っていく。(中略)たとえば第一〇曲をモデラート、mpぐらいの領域で歌いながら、その内部でのppとfとの対比が出てくるとき...
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2012/04/12 16:24 |
『ここにベートーヴェンがいない』 (Orphic Schubert 90)
遠い東方の日本という国では、小林という名の俳人が土蔵の中で、男女の交わりの記憶に苛まれながら亡くなった。
そして亡命の地とはいえ、長命の画家ゴヤがボルドーで亡くなった――彼の頭蓋骨だけは紛失あるいは盗難の憂き目にあってはいるらしいが。
そうだ。日本にもう一度話を戻せば、オランダ商館の一員として長崎に滞在していた一人のドイツ人により「大日本沿海與地全図」の縮小マップをコルネリウス・ハウトマン号に隠していたことが出港後判明したのも同じ年の九月十八日だった。地図はつまりはというわけだ...
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2012/02/28 17:36 |
『将軍が叱られた』
将軍がいささか大きすぎるパイプを口にくわえたまま言った。
……少佐、先日依頼した調査は進んでいるのかね。
……はい、将軍。それが……。
ミゲルが凍りついた顔で敬礼した。
……なんだ。まだ報告を待たなきゃならんのかね。君にはがっかりだよ。
将軍は椅子から立ち上がり、窓辺に移動し、部下に背を向けた。ミゲルは敬礼を崩さず、ただし、片方の眉をぴくりと上げ、抑えた声で言った。
……失礼でありますが、今のお言葉は承服しかねます、将軍。
何?、
将軍派が振り返った。
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2012/01/28 17:20 |
『複雑系の構造と、その単純な哀しいルール・・・』 (Orphic Schubert 89)
ハイネの詩に曲をつけたフランツ・シューベルトのことは、すでに触れたのだったが、その後十年以上を経てから、ロベルト・シューマンが、これも音楽史に残るハイネ歌曲集を作曲したことを思った。『詩人の恋』という、せつなく、それ自体が夢のような名曲。中学生のころ、オープンリールのテープレコーダーで、おもちゃのようなマイクをテレビの前に立てて録音したヘルマン・プライの歌声とレオナルド・ホカンソンの伴奏によるその曲を毎日のように繰り返し聴いたことは懐かしい思い出であり、しかも薄れることのない記憶だ。
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2011/12/31 20:19 |
『万葉集、もしくはハイネ』 (Orphic Schubert 88)
英語の詩の引用からはじめてしまうのがいいのかわるいのかわからないが、出来ることなら声を出してゆっくりと読んでいただければと思う。
On the sea of heaven
the waves of clouds rise,
and I can see
the moon ship disappearing
as it is rowed into the forest of stars.
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2011/12/24 16:42 |
『蟷螂』 〜黄葉(もみぢば)小説
蛍光灯に照らされた窓に、恵子が目をむけたのはたまたまだった。緑色をしたモノにその目が止まった。蟷螂だった。今よりもっと小さい頃、どこかで見たことがあったし、図鑑でもなぜか気に入って眺めていたことがあるので、蟷螂だとすぐにわかった。
恵子は小さな勉強机から音を立てないように離れ、窓ガラスに顔を寄せた。ガラスに自分の顔が映ったが、灯りのせいか嫌な顔をしていたので、それを見ないように、蟷螂だけを視界いっぱいに入れるようにした。
蟷螂は逃げる素振りを見せなかった。ただ、顔を微かに傾げて...
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2011/11/10 17:38 |
『眠るライオン、もしくはカップの中に浮かぶ蚊』 〜黄葉(もみぢば)小説〜
「ボカ!」
妻の鏡子が3月22日、テレビに向かって罵り声をあげているのが、コーヒーを淹れている台所にまで聞こえてきた。
居間を覗くと、テレビ画面で一人の男の顔が大きく映っていた。男が何を喋っているのかは台所からは聞き取れなかった。だが鏡子の言葉ははっきり聞こえた。。
「この人、本物のボカやわ」
私は苦笑した。
〈鏡子版・新日本語辞典〉では、ボカとは基本的には「バカの複数形」だからだ。
はじめてボカなる語を彼女の口から私に向かって発せられた時に、詳しく聞かされた解説は...
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2011/11/02 19:15 |