しとしとと一日、雨が止むことなく降ったその次の日だった。
雨はあがっていて、曇り空とはいえ、時おり陽の光が射す日だった。
佐智子は居間のガラス扉を開けて、ベランダに出て、太陽がゆっくりと陽射しを増すのを見届けると、よっしゃ、と声に出して居間に舞い戻り、ソファにかけておいた黄色のカーディガンをつかむと、マンションの三階から慎重に…
何十年も前の話。
中学三年時に音楽教師からの一言。「毎月配られるクラシック音楽入門のレコードが欲しいか」
何せ金が要るわけで、母親に許可を得て購入。そこで、ディースカウの「菩提樹」を聴かなければ、たぶん私はクラシック入門早々時からドイツ歌曲に惚れ込むことはなかっただろう。
で、ディースカウの「菩提樹」であれ、後々、聴く…
※相当に久しぶりのアップ。
心理状況として余裕がないので、簡単に書きます。
ほとんどの読書は、図書館で借りた本でこなしています。可能であれば延長もしながら。小川洋子さんの小説だったり、パコ・ロカの漫画であったり(これは2度読みました)、宮沢賢治関係の本だったり。面白かったり、面白くなかったり、何であれ、手元に借りてきた…
食器洗剤を垂らした
しゃわしゃわした布で
いわゆる食器を洗っていると、
シャボン玉が舞った。
直径一ミリの10分の1くらいの
数個のシャボン玉が。
屋根まで飛ぶこともなく
静かに流し台に降りて
消えた。
わたしは
散歩途中、足元を蟻が歩いているのを見つけると 踏み殺さないよう…
図書館から多和田葉子さんの『雲をつかむ話』を借りてきた。この人の文章というか日本語はどこか独特で、しかも漢字やひらがなの表記にこまやかな気遣い(読者諸氏、それがわかるか?と陰でこちらを見つめているような気配もあり)が感じられ、読んでいて、おいしいご飯を食べている感じがする。少し硬めのおかずで噛み噛み、といったところ。
…
多和田葉子氏の『言葉と歩く日記』に興味深いエピソードが綴られていた。
ベルリンの少年刑務所で受刑者たちが演じる芝居を観にでかけた日の話。(因みに、その日の演者はドイツ語を母語とする人はいない。)
演目は、「ウェスト・サイド・ストーリー風の物語」で、自作のテキストを「ラップにして歌う」、そんな舞台だった。
しかし多和田氏…
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「他人から聞かされる夢の物語くらい、退屈なものはない」
とは、澁澤龍彦が夢のあれこれを編纂した『夢のかたち』(澁澤龍彦コレクション・河出書房新社)の序での第一声。
確かに『夢のかたち』で紹介されている百を超える夢、あるいは夢の断片、もしくは考察。退屈で読み流したものがいくつもある。でもなるほどと納得(何…